『本スレ住民の何か 〜序章〜』  文:ゲーム好き名無しさん  それはどこにでもあるような、五月の、曇りがかった休日の一幕であった。 「ここか、うどんげ合同は」  俺がそう呟くと、そのスペースの奥に鎮座する男が、微かに反応を示した。 例大祭開幕早々、俺は当初の目的であるうどんげ合同のスペースへを足を向けていた。  うどんげの良さは、新参にしか判らないと人は皆口々に言う。 否、新参だからこそ、新参故に、ビギナーは安直にうどんげに魅入られると人は言う。 しかしなにするものぞ。 たとえ地球から原油が枯渇しようとも、俺はうどんげを愛し続けるだろう。  そんな万感の思いに胸をはせながら、自分の言葉を噛みしめるかの様に、もう一度呟く。 「そうか、ここがうどんげ合同のスペースか」 「いえ、ここは、突発的などっかのなんかの合同スペースです」  俺の誰にかけるでもないその問いに、スペースの主はそう答えた。 暫くの間の後、俺はそこがうどんげ合同のスペースではないことに気付いた。 そう、ミスディレクションだったのだ。  俺は自らの動揺を覆い隠すかのように、その青年を見つめ返し、観察した。 見た感じ、二十代前後のどこにでも居るような、そして、どこにでもいたら流石にまずいような、 そんな領域の青年である。 自分も少なからず、いや、確実にその領域に住む人間の一人であると言えよう。  そして、その隣に座る男もまた、一心不乱にスケッチブックにマリアリを描いている。 ――この男は玄人だ。  俺は直感的にそう理解した。  そんな自分の洞察や、股間の三月精に水を差すかのように、うどんげ合同の主催ではなかった青年が、 少しの間の後に、言葉を続ける。 「優曇華院をご所望でしたら、ぬの1から14、わの16から23に行けばよろしいと思います」  Pと名乗るその男は、丁寧に、俺の中の差し迫った問題を氷解させようと努めてくれた。  例大祭における配置を事前に頭に叩き込んでおくこともまた、東方紳士として必須事項なのであろう。 しかし、その範囲だと微妙にてゐも混ざっていた。 うどんげとてゐを引っくるめてウサギ系と分類したのならば噴飯物であるが、彼の場合、 全体的な視野から見た老婆心により、自分にそうアドバイスしてくれたのだろう。 そう、うどんげとてゐは切り離せない。 師匠もまた然り、である。 「では、その親切に対する対価として、その、突発的などっかのなんかの合同とやらを頂こうか」  Pの東方紳士ぶり大いに感服しつつ、俺は最大限の敬意を持ってその制作物を購入することにした。 きっとこのような男が産み出した創作物ならば、その値段に見合った物であるに違いない。   「残念ながら、突発的などっかのなんかの合同は、完売御礼となってしまいました」  数刻の沈黙の後、Pは微笑みながら、こう返す。  Pの横で、もりと名乗る人間が、一心不乱にふたなりを描いている。  ふたなりは文化だ。  誰かがそう心の中で叫んだ気がした。  会場は更なる参加者の増加と共に、その熱気を増し、更なるカオスを産み出そうとしている。 「――アア、ソウカ」  俺はそう呟くと、踵を返し、このスペースを後にした。  目指すはぬのスペース。そして、わのエロスペース。  横目に見ると、総本山があり得ないくらいの長蛇の列を自動生成し続けている。  そして、自分が向かうであろう領域もまた、狂気に充ちた男幕に、支配されつつあった。  俺の長い例大祭(いちにち)が始まる。  今日は前日の雨の影響で、曇り空ながら、そこはかとなく蒸れる一日となるそうだ。  ああ、なにもかもがつまんね。 (本編に続く)